コラム
メディア・コンテンツビジネス
デジタル化時代のラジオビジネス ~クライアントのマーケティング変化とラジオの位置づけの変化
COLUMNS

世の中のデジタル化が進み、生活者のメディア接触がインターネット、特にモバイルに集中していく中、ラジオビジネスはどう影響を受け、変化しているのか――。シリーズ初回となる本稿では、博報堂DYメディアパートナーズ ラジオ局 ラジオ業務推進部の島村徹、データビジネス開発局 データマネジメントプラットフォーム部の古矢真之介が、変化しつつあるクライアントのマーケティングとラジオの位置づけについて語ります。

mp20181017_radio_business_01

左から、博報堂DYメディアパートナーズ ラジオ局 ラジオ業務推進部 島村徹、データビジネス開発局 データマネジメントプラットフォーム部 古矢真之介

デジタル化によって増す「ラジオの価値」

島村
僕は2012年入社で、雑誌局から今のラジオ局に異動して丸2年となります。現在はラジオ業務推進部に所属しており、普段はクライアント向けのラジオメディアを中心としたメディアプラニングや、番組の企画、ラジオ局を中心としたプロデュース業務を行っています。radikoはTVerより5年程早く登場していましたし、ここ数年Spotifyやラジオクラウドといったデジタルオーディオも存在感を持ち続けている。従来の地上波だと、平日朝は通勤中、昼は業務中、夕方は帰宅中、夜は就寝時……などオーディエンスのおおよその状況を想定し、それに基づいてタイムテーブルをつくっていたわけですが、デジタル化が進むにつれて、個別のオーディエンスを取り巻くもっと詳しい状況が知りたいという要望がクライアントからも出るようになってきましたね。

古矢
僕は2016年の入社当初から現在のデータビジネス開発局データマネジメントプラットフォーム部です。生活者DMPの基盤構築から、どんなソリューション開発が可能かなどを日々検討、サービス構築や実装に携わっています。島村さんがおっしゃったようなクライアントからの要望という点では、やっぱりデジタル広告の出現によって、具体的にどんな人に広告が当たっているかや、どんな効果があったのかが可視化されてきているので、4マスメディアの広告効果についても、説明責任が発生してきているのかもしれません。

島村
そうですね。あと、僕は雑誌局出身なので特に顕著に感じるんですが、ラジオはそもそも時間に対する意識がほかの媒体とは異なっていて、リスナーがその時どういう状況にあって、どういう気持ちなのかといったことをものすごく考えた上で番組をつくっているわけです。それはラジオの伝統みたいなものだと思いますが、デジタル化によって相対的に価値が増しているような気がしています。

古矢
近年話題となっているデジタル広告のアドフラウド、ビューアビリティ、ブランドセーフティなどの課題に対しても、ラジオならではの強みが意味を持ってきますよね。現状では、デジタルメディアの数が増えて機械による自動入札が進んだことにより、広告がどこにどんな状況で出ているのか不透明になってしまう課題が発生しています。その点、4マスメディア由来のラジオをデジタル化したものであれば、安全性もあり、耳を占拠するという意味でヒアラビリティ(音声広告の場合のビューアビリティ)も高い。4マスメディアとしてのブランドセーフティも担保したまま、きちんとした形でユーザーに広告が届けられるわけですから。

mp20181017_radio_business_02

「情報が深く伝わる」「空間を支配できる」「アクションを喚起できる」――
豊富なデータで音声メディアの力を明らかにしていく

島村
メディアとしてのラジオの良さは大きく二つあって、一つは情報の発信者が誰か、主語が明確なこと。たとえば雑誌でいえば、ある記事が印象に残ったとしても読者はライターからの情報というより、その雑誌で得た情報として認識しますよね。でもラジオの場合、番組パーソナリティ個人が語ったこととしてリスナーが認識するので、人からの情報として伝わり方がとても深い。もう一つは、ラジオは音を媒介とするので、コンサートやライブイベントのように、音が届く範囲の空間をある意味支配できる。
デジタルオーディオによって聞き手がどこで何をしている状態かがデータ上でわかってくると、この二つの特徴を活かして、「音」でしかできないような、クリエイティブの何か面白い仕掛けができるのではないかなと思います。

古矢
確かにそうですね。データ領域ではターゲティングはかなり進んでいますが、その瞬間その人がどういう状態だったかというモーメントの部分はまだ行きつけていないことが多い。ネットのリスティング広告もモーメントと言えますが、ウォーキングしているとか電車移動しているとか……検索行動までいかないような感情や状況ってありますからね。ラジオの場合はいわゆる「ながら聴き」、つまり何かに接触しながらの状態が考えられるので、位置情報などを使ってわかったモーメントと掛け合わせて広告配信していくと何が起きるのか、是非検証してみたいですね。ますますOne to Oneマーケティングが加速していくように思います。

島村
あと、先ほど言ったラジオの「情報の伝わり方の深さ」みたいなことが、データ化できるとすごくいいなと思っていて。どうやるのかはまったくわからないけど(笑)。同じ情報を伝えていたとしても、その人が言っているから人が動く、といったことが目に見えるようになると面白いなと思う。

mp20181017_radio_business_03

古矢
そうですね。同じ素材の広告効果を出稿番組別に見て、番組(パーソナリティ)&リスナーの相性と効果差の相関を見れば、どういうときに深く情報が伝わっているか見えるかもしれません。それから、データを使えばたとえば特定の番組を聴いている人がどんな興味関心を持っているかがはっきりしてきます。この枠だったらクルマ興味層が多いとか。これまでは調査ベースでしたが、今後はそれがアクチュアルベースでわかるようになる。ラジオ局側のビジネスとしてもセールスの大事な材料になるのではないでしょうか。また、これまで調査ベースで見ていたデモグラを、これからはデジタルセグメントを使って切られるようにもなる。クライアントの自社サイト来訪ユーザーが、ラジオではどんな番組に関心があるかがわかれば、クライアントにとっても最適な番組が何かわかるようになります。これらのアプローチにより広告効果自体の向上やターゲットリーチの最大化が狙えるようになります。

島村
ラジオ番組ってテレビに比べるとリーチは少ないですが、たとえばSNS上だとテレビに匹敵する反応が出たりするんです。ラジオ発のイベントで数万人規模のものがいくつもあったり、要は人を動かす力のある、アクションにつなげられるメディアなんですよね。実感としてはあるけど、定量化されていない。radikoの情報を使うことで、ラジオリスナーのその後の行動に対する番組の貢献度のようなものが可視化されると面白いと思います。その際、ラジオの表現のどの部分がトリガーになったかが細かくわかるようになれば、また次のラジオコミュニケーションのプラニングに繋げられます。

古矢
ちょうどこの8月からradikoに関しても、地上波で流れる広告とは異なるradiko専用の広告が流れるようになりました。これまでは地上波のコンテンツがそのまま流れていたので、radikoユーザーに向けたクリエイティブの工夫ができなかったわけですが、たとえば時間帯によって「おはようございます」「こんにちは」「こんばんは」と出し分けたり、ユーザーセグメントの性質毎に異なる表現で出したりすることで生活者との親密度や商材理解度が増し、広告効果が高まるといったことが考えられます。さらに、音声広告の自動生成が進んでくれば、人・モーメント単位で最適な音声広告を流すことが可能です。今は動画メディアにおいてデータ分析とそれによる最適化がクリエイティブに踏み込んできていますが、ゆくゆくはラジオもそうなるだろうと予想ができます。

mp20181017_radio_business_04

さらに言うと、複合メディアも鍵になってきます。生活者は一度広告を見ただけでは買ってくれなくなってきています。今の生活者は複数の情報接点から商品に関する情報を得て、購買するかどうかを判断しています。複合メディアと重複させて、テレビとラジオ両方で広告を見ると購買されやすいとか、あるいはテレビ広告を先に当てて認知を広げた上で、ラジオで深く訴求するといい、といった分析も重要になってくると思います。
ラジオって、他のメディアに比べるとデータの充実度がかなり高いと思うんです。たとえばFacebookやYouTubeといったデジタルメディアはかなりのデータを有していますが、個人情報保護の観点などからデータは出てきづらい。その点radikoは広告会社とラジオ局が共働で取り組んでいて比較的データが出てきやすいため、深い分析も可能で、効果の可視化もしやすいだろうと思います。

島村
それは大きいですよね。業務推進部としては、それによってクライアントに出していく提案内容も、やり方も変わっていくのではないかと思っています。いまは調査パネルがベースでサンプル数に限りがありますが、その点はデータの側面から、数あるメディアの中でもラジオがどういう役割を担い、どういう力を持っているかが明確になってくると、ラジオが活躍できる領域がもっと広がるのではないか、と思います。

古矢
データがつながっていることで、たとえばこのラジオ番組を聴いている人はテレビをあまり見ていないといったことがわかるようになると、テレビを見ていない人に対するリーチ補完のために、ラジオを活用しましょうという話もできるようになると思います。実は以前、アプリの利用実績データを用いた分析で、40~50代のテレビをあまり見ていない層の含有率は、他メディアと比べてradikoが圧倒的に高いということがわかりました。おそらく今までラジオに馴染みのあった世代で、かつデジタルメディア適応性も高い人たちがテレビから離れていき、ラジオをデジタルで聴くようになっているのだろうと思います。そういう層に当てられるというのもラジオの強みですね。

ラジオビジネスの次なる一手、新規事業で音声広告の未来を拓く

島村
10月からは、ラジオ局の新規事業として、実証実験にも取り組んでいます。ラジオ局にオリジナルの音声コンテンツを制作してもらい、美術館などの音声プログラムとしてスマホのアプリで提供するというもの。場所に特化したコンテンツを介してユーザーの位置情報がわかるようになり、さらには街中のさまざまなスポットに合わせたコンテンツ発信へと展開させ、街歩きのガイドのような役割も視野に入れたサービスです。視覚で情報伝達しようとすると場所の制限がかなりありますが、音であれば、人の行動に合わせて一緒についていくことができる。クリエイティブとしても面白い工夫ができそうですし、データとしてもさまざまな応用が見込めます。

古矢
データターゲティングの観点から見ると、広告を出したいときに出せるというのは大きいですね。デジタルの場合はユーザーがその画面を見ていないと出稿されないし、出稿されたとしても、移動中だったりして見逃されることも多い。その点音声なら「ながら聴き」ができるので、広告を配信したい時にちゃんと聴いてもらえる。テレビの場合、接触、認知から、購買などのコンバージョンに至るまでのリードタイムが少し長いため、コンバージョンが本当に広告効果だったのかどうかを可視化しづらいですが、アプリなら場所に紐づいた適切なタイミングで広告を送るので、その後の行動喚起も早くなり、広告効果も可視化しやすいのではないかとも思います。特に、棚前に立ったときに何を想起するかなど、購買直前の情報に左右されるような一般消費財のクライアントなどには特にニーズが高そうですね。

島村
ラジオって本当に面白い。地上波以外のアウトプットをデザインできれば、「音」だからこそ、もっと活躍できるフィールドが広がると思っています。ラジオ局にとっても、コンテンツをラジオ以外の出し先に展開し、ビジネスを広げていくことは、大きな意味があることだと思います。とりあえず目下の目標は、その新規事業を軌道に乗せることです。そして、観光に行く際にチェックする「地球の歩き方」の音声版みたいな存在にできたらいいなと思いますね。

古矢
この検証結果をほかの音声媒体に補填するというのもありですし、僕らが今まできちんとできていなかった細かい分析を通して、ラジオ全体のビジネスを盛り上げることができたらいいですよね。
そしてデータ分析の立場から今必要だと思うのは、地上波とは異なるradikoのCMが流れ始めている中で、まずはその広告効果をきちんと分析し、音声広告の実態について科学的に把握すること。そして人のモーメントと掛け合わせた時の広告効果もきちんと検証していきたいですね。

島村
広告会社が取り組むオーディオビジネスという点でもまったく新しい試みだと思っています。ラジオというメディアを愛する身としては、このサービスを通して、「ラジオはこんなに面白い!」ということをクライアントも含め、世の中の人にもっと知ってもらえたら嬉しいですね。

クライアントのマーケティング変化とラジオの位置づけの変化

今回の対談では、ラジオ局のビジネスとデータ分析の視点で、これからのラジオビジネスについて語り合いました。スマートフォンが日本に上陸して今年で10年。スマホアプリが急速に普及し、radikoが登場したことで4マスメディアと呼ばれるラジオの立ち位置も変化してきています。今回の対談でもあがっていたように、ラジオ広告のデジタル化によって更なる進化のきざしが見えてきました。次回はradikoの担当者が、新たにはじまったオーディオアドの可能性について語ります。

◆プロフィール

mp20181017_radio_business_prof01_shimamura02

島村徹
ラジオ局 ラジオ業務推進部
2012年博報堂DYメディアパートナーズ入社。雑誌局配属を経て、2015年よりラジオ局に異動。媒体社のメディアプランニングや、媒体社のコンテンツを軸にしたソリューションプロデュースに従事。

 

mp20181017_radio_business_prof02_furuya

古矢真之介
データビジネス開発局 データマネジメントプラットフォーム部
2016年博報堂DYメディアパートナーズ入社。データマネジメントプラットフォーム部に配属。生活者DMPを用いた新規ソリューション開発とそれを活用したクライアント案件を担当。

  • このエントリーをはてなブックマークに追加
PAGE TOP