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メディア・コンテンツビジネス
Spikes Asia 2015:審査員が語る  アジアで評価されたポイントとは? 
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アジア最大級の広告祭「スパイクス・アジア2015」。
審査員を務めた2名から、評価のポイントを聞きました。

三神正樹(博報堂DYメディアパートナーズ 執行役員/メディア環境研究所 所長)

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<メディア部門>
あらゆる場で一貫して楽しさが体験できるキャンペーンを評価

メディア部門では、広義の意味で新しいメディアの創造になっているか、僕らのビジネスを一歩前進させ、生活者にちゃんと届いて心や体を動かせるカギになるものかどうかが審査のポイントだったと思います。かつ、それが一過性のものではなくて、ほかのクライアントやほかのブランドにも横展開できるかどうか、1万人、10万人と拡張できるかどうか、そして計測可能で説明力があるかどうか。そんなふうに考えて審査に臨みました。

グランプリをとったのは、シンガポールのLCCタイガーエア(格安航空会社)がオーストラリアで行ったキャンペーン「Infrequent Flyers Club」です。LCCの売りは“安さ”ですから、お客様には、席が狭くてもロビーが豪華でなくても我慢してください、となる。本当の意味での精神的なブランドエンゲージメントをつくるには難易度が高いブランドです。

そこでこの会社は、あらゆる手段でお金をかけずに「楽しさ」を作り出しました。たとえば公式サイトで何百種類もの会員カードデザインをダウンロードできるようにし、ユーザーにはそれをプリントアウトし、はさみでカットして持ってきてください、という仕組み。荷物のタグも同様に、種類はたくさんあるので好きなデザインのものをプリントアウトして使ってください、と。そして空港ではVIPラウンジ風のドアを用意しておき、実際にそのドアを開けてみると壁になっていて、「最高のラウンジは君の家の居間だよ」というメッセージのポスターが貼ってある。一見おふざけのようにもとれますが、彼らはテレビでもウェブでもモバイルアプリでも空港ロビーでも、あらゆる場で一貫して“楽しい体験”を提供しました。その結果「認知度」と「好意度」を高め、安いからだけではなくて、「楽しくて好きだからLCCを使う」という動機を生み出した。

ラジオ部門やサイバー部門などと並んで「メディア部門」が存在する意味は、真のメディアインテグレーションとはどういうことなのか、だと思っています。いろいろなメディアのやり口が統合されて、全体として大きなムーブメントになっているか、人の心を動かしているのかがポイントです。その意味で、このキャンペーンも人の心や体を動かす成功事例だったと思います。

 

橋田和明(博報堂ケトル クリエイティブディレクター

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<ダイレクト部門>
ユーザーの声が施策のクリエイティビティを高めた事例

ダイレクト部門で問われたのは、測定可能なダイレクトレスポンスがあるかどうかでした。グランプリをとったのはニュージーランドのオーストラリアンフットボール専門ラジオチャンネル、3AWによる「It’s your call」というキャンペーン。ネットに押されてラジオ離れが進む中、なんとかして視聴者を増やそうと行ったものです。

前提として、このラジオ番組はアナウンサーが素晴らしいプレーがあった際に意味不明なフレーズを絶叫することで人気なんです。そこで、アナウンサーに叫んでほしい言葉をソーシャルメディアで募集し、実際の放送で読むようにした。リスナーが応募した言葉が放送に流れると嬉しいので、またどんどん応募が集まる。結果的にラジオへの関心を高め、視聴者を呼び戻すことができたという事例です。ユーザーの声という“ダイレクトなレスポンス”がその施策のクリエイティビティを上げて、もっともっと面白くしていった。そういう面白さを創造したところが評価されました。

<プロモ&アクティベーション部門>
トラディショナルな施策であるクーポンのユニークな活用法

プロモ&アクティベーション部門の評価基準となったのは、とにかく商品とブランドのプロモーションに徹したものであるということ。グランプリはニュージーランドのBMWがエイプリルフールに行ったプロモーション「Reverse April Fools」です。

エイプリルフールである4月1日の新聞に「ディーラーで最初にトムという販売員に声をかけた方は、あなたの車とBMWの新車を交換します」のメッセージとともにクーポンを載せました。普通、誰もが嘘だと思うと思います。でも実際は、クーポンを手にディーラーに来た人に新車がプレゼントされるというもの。ポイントは、いまや僕らがもう当たり前のものとしてあまり考えなくなってしまっている、いわばトラディショナルな施策であるクーポンを活用したこと。それを新聞という媒体の広告にきちんと載せて、車のプロモーションに対してしっかりと大きな影響を及ぼしたというのがすごいことなんじゃないかと。そう評価しました。

 

■広告業界の人間が広告祭に参加する意味とは?■

橋田:僕自身は、広告の新しい手法を探す場ではなくて、マーケティング全体として、国際的に何が語られていて、いまどんな潮流にあるのかを探るための場だと思っています。かつての広告祭と異なり、いまは「クリエイティブ フェスティバル」というようになり、広告主、メディア、テクノロジー関係など、広告業界以外の人たちも大勢集まる場です。スパイクスのチェアマンのスピーチにもあったのですが、いまはクリエイティビティだけでは生き残れない。よりアカウンタビリティを発揮してビジネスを進めなければいけないということだと思います。

三神:僕は2年前初めてカンヌの審査員を務めてから、海外賞に対する印象が変わりました。仕事の視野を広げるための示唆に満ちていて、世界から集まった人たちが何を課題とし、どんなプレッシャーを受け、何を嬉しいと思っているのか――他の何を見るよりも、何を読むよりも、肌で感じ、得られることがすごく多い場であると思いました。審査は本当に難しかったですが、数日間の審査期間で数年間分の実務経験と同じくらいの密度の経験を得られることができたと思います。

 

三神正樹
博報堂DYメディアパートナーズ 執行役員/メディア環境研究所 所長
1982年博報堂入社。インターネットの黎明期から、中心的存在の一人として博報堂のデジタルビジネスを牽引。2009年にエンゲージメントビジネス局長に。2011年博報堂執行役員兼博報堂DYメディアパートナーズ執行役員に就任し、データドリブンマーケティングなどに取り組む。2014年4月メディア環境研究所所長。

橋田和明
博報堂ケトル クリエイティブディレクター
2002年博報堂入社。2006年博報堂ケトル設立とともに同社に。現在は戦略からエグゼキューションまでを企画・実施するクリエイティブディレクター。主な仕事に、資生堂 正月企業広告「50 selfies of Lady Gaga」、Yahoo! JAPAN「さわれる検索」など。主な賞歴に、12のCannes Lions、4つのAdfest グランプリ、Tokyo ADCなど。

※執筆者の部署名は、執筆時のものであり現在の情報と異なる場合があります。

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