コラム
メディア・コンテンツビジネス
メディアビジネスで、地域創生に挑む。
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問題をみつけて課題を設定し、戦略やアイデアが生まれる。それを実行して問題を解決していく。すると、また別の問題をみつけて新たな課題を設定して解決に資するアイデアが生まれ、それを実行して問題を解決していく――。良くも悪くも、あらゆる領域におけるこのサイクルの繰り返しこそが、人間が創ってきた歴史そのものといえるかもしれません。そして今もそのサイクルで歴史がつくられています。

“マス”メディア と “マイ”メディア の二項共存

かつては口頭や手書きでしか情報の伝達ができませんでした。その後、活版印刷技術の発明により、書籍や雑誌、新聞が生まれました。さらに無線通信技術の発明がラジオやテレビの登場につながりました。結果、一度に同じ情報が広く共有できるようになり、「“マス”メディア」が生まれました。

そして今、デジタル技術の急激な進展により、PCやスマホ、タブレットなどを使って自分の好きなタイミングで情報を取得したり、コミュニケーションをとったりすることができるようになりました。自分だけのメディア、いわゆる「“マイ”メディア」の登場です。

いまや、この「“マス”メディア」と「“マイ”メディア」は、私たちの暮らしの中で共に大きな存在感や影響力を持っています。その性質の違いから、“マス”メディアと“マイ”メディアは二項対立で語られ、“マス”メディアが“マイ”メディアに脅かされているといった論調も聞こえてきます。しかし私は、生活者のメディア環境やニーズを鑑みたとき、互いに補完し合うことで相乗効果が出せるのではないか、いわゆる二項共存ができるのではないかと思っています。

 “マス”メディアと“マイ”メディアを効果的に活用した「みんなで歩こうキャンペーン」

昨年、沖縄のテレビ局・琉球放送で「みんなで歩こうキャンペーン」を実施しました。このキャンペーンは、かつて長寿県として知られた沖縄県で「食生活の変化や運動不足が原因で増えた肥満を解消」し、「長寿県No.1の復活」を目指そうというものです。一人でも多くの県民に参加してもらおうと、“マス”メディアと“マイ”メディアを効果的に活用し、企画からアクティベーションまでおこないました。

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<キャンペーンの設計>
① テレビCMや情報番組などでオリジナルのスマホ用「歩数計アプリ」を告知し、広く参加者を募る
② 「歩数計アプリ」では、歩数に応じて一人ひとりにポイントを付与する
③ ポイントごとにもらえる対象商品を設定し、期間中であればいつでもコンビニで交換できる

このキャンペーンはこれまでに3度実施し(2015年10月時点)、およそ8万人にも及ぶ県民の皆さん(沖縄県のスマホユーザーのおよそ15%)に参加いただきました。成功した要因は、「“マス”メディアのテレビを入り口に、“マイ”メディアのスマホで体験してもらい、店頭へ来てもらう」という、シンプルながらも効果的な仕組みを作ったことです。キャンペーンの告知に終始しがちなテレビメディアを、スマホを使うことでファンクショナルな自分ごと化ツールとして活用できました。事後アンケートでは、「普段よりも歩いた」という声だけでなく、「自分ごととして健康意識が高まった」という県民が多数いたことがわかりました。何よりもうれしかったのは、キャンペーンが終わった後もほとんどの県民の方がそのまま使ってくれていたことです。

このように“マス”メディアでキャンペーンなどを告知するだけではなく、生活者の近くにある“マイ”メディアと組み合わせて生活者一人ひとりの動線を創ってあげれば、よりマインドシェアの向上や店頭への送客増など新たな役割が見込めるかもしれません。”マス”メディアで解決できる問題も増えるでしょう。

日本の地域から社会課題の解決を

日本には少子高齢化など、世界的に前例のない社会課題が多く存在しています。だからこそ、メディアを活用して社会課題の解決を目指すことは、ビジネス的にも大きなチャンスだと考えています。今の日本の課題は、諸外国にとっては近い将来の社会課題になり得るものです。日本で課題解決に成功すれば、そのフォーマットを同じ課題を抱える国に持っていくことも可能です。課題解決のプロセスで思いもよらぬイノベーションが起きる可能性もあります。

特に日本のローカルエリアは数々の課題を抱えています。それだけに、ローカルエリアが発信源となって世界規模でうねりを起こすことができれば、地域創生の産業的な切り札にもなりえます。それを、影響力があって公共性の高い地域密着型のローカルメディアが発信して課題解決にあたる。これからのローカルメディアと私たち総合メディア事業会社の大きな役割のひとつかもしれません。

総合メディア事業会社のミッションは“問うこと”

総合メディア事業会社のミッションは大きく分けると2つあると考えています。「既存メディアの価値向上」と「新規メディアの開発」です。いずれにせよ、社会やそれを構成する生活者に対して“問う”ことから始めなくてはなりません。特に「新規メディアの開発」においては、総合メディア事業会社が先回りして社会課題に触れ、その根幹を問い、解決策までのパッケージを媒体社と開発することが求められると思います。無数の社会課題が存在するいまの日本だからこそ、社会課題に対して総合メディア事業会社自ら問いを立て、ひとつでも多くの「世の中を良くするプロトタイプを創る」ことが大切ではないでしょうか。

※「みんなで歩こうキャンペーン」は、博報堂DYグループ CSRレポートにも掲載されています。
博報堂DYグループ CSRレポートは こちら (「みんなで歩こうキャンペーン」該当ページは こちら

前迫 篤男 タイムビジネス局 テレビ四部

1999年博報堂入社。テレビ局、営業局を経て、2012年よりテレビ局へ復職。プラニングやバイイングのほか、メディアやコンテンツを使ったコミュニケーション開発も手掛ける。ACC、日本民間放送連盟賞、日本マーケティング大賞、ギャラクシー賞等受賞。

※執筆者の部署名は、執筆時のものであり現在の情報と異なる場合があります。

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