コラム
データドリブン
いま求められる、ロボットを基点にしたエコシステムの構築【データ・クリエイティブ対談  第1弾】~ゲスト:高橋智隆さん(ロボットクリエイター)~
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データ・クリエイティブはこれからどう進化していくべきなのか。その在り方について、博報堂DYグループ社員と識者が語り合う対談企画がスタートします。第1弾のゲストは、ロボットクリエイターの高橋智隆さん。パナソニック乾電池のCMが話題を呼んだ「エボルタ君」や、ロボット電話「ロボホン」など、丸みのあるかわいらしい見た目の人型ロボットを手掛ける高橋さんに、ロボットと人との関係性について、これからのコミュニケーションロボットの可能性などについて、博報堂DYメディアパートナーズ の篠田裕之と博報堂の栗田昌平が伺いました。

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非効率な人間性とコンピューターの間を取り持ってくれるコミュニケーションロボット

篠田
僕は、いま広告の中でも、特にデジタル領域、およびデータ分析に携わっていますが、近年、インターネットやデバイスの進化などによって、情報摂取や購買行動などがより一層、効率的・便利になってきているように思います。しかし、一方で、日常の生活には、たとえば何かを買うために行列に並ばないといけなかったり、自分が欲しい商品を探すために店内を歩き回ったりと、相変わらず物理的な制約が多いとも思います。ただ、最近では、スーパーなどで、事前にオンラインで購入してオフラインの店舗で受け取るなど、オンライン・オフラインの統合を進める動きも一部見られます。さらに進んだ動きとして、ドローンが人の代わりにモノを運んでくれたり、ペッパー君がお店で案内してくれたりと、ロボットの存在が、まずは限定的な場から世の中に少しずつ広がっていっているように思います。この動きがより広がると、日々の行動やメディア接触の方法、時間の過ごし方が変わっていき、人と人とのコミュニケーションのあり方も変わると思います。今後、企業と人、人と人、人と情報、のつながり方はどのように進化していくのか、その鍵がロボットにあるように感じていますが、これから人とロボットの関係はどのように展開していくと思いますか?

高橋
すごく面白いテーマですよね。先日も、別の取材で、テクノロジーで僕らの生活がどんどん便利になっていくという話をしていた矢先、世間は大雪で大騒ぎになっていて、遅延証明書をもらうために駅の窓口に行列ができていて……。結局、世の中には人手を介さずに合理的に進化ができる部分と、良くも悪くも、いつまで経っても進歩できない要素を抱えた人間という存在があるわけですよね。その両者を取り持つことができるのが、僕はコミュニケーションロボットだと思っているんです。コミュニケーションロボットは、コンピューターと人間のどちらの言語も理解することができるので、従来の、人間活動のほとんどを占めるかもしれない非効率なコミュニケーションとも相性がよく、かつ、膨大な量の情報から最適なものを探し出してくることもできる。ポイントは、“最良な”ではなく“最適な”ということ。つまり、その人が最近ラーメンに凝っているのであれば、「あの店なら口に合うと思うよ」と、ロボットがその人の好みに応じてレコメンドしてくれるといったやり取りが可能になるわけです。それはもしかしたら、自分がセンスを信頼している、お気に入りのブロガーがレコメンドした商品を買いたくなるといった心理に近いものかもしれません。

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篠田
面白いですね。現状のECサイトは、ウェブのブラウジングや購買履歴などの、ある意味、結果としてのデータを用いて、「この人はこういうものが好みかもしれない」ということを分析して、商品を推薦することが多いわけですが、ロボットが人間のコミュニケーションに介在していくことで、これからは人間が行動を起こす前の、つまり結果の前の、行動の余剰の部分も情報として把握できるようになっていくのかもしれません。そして、一見無駄にも思える余剰の部分にこそ、その人らしさや好みというのは隠れているように思います。行動の余剰に注目することで、その人に推薦する中身を大きく変えていくことが出来るかもしれないですね。

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高橋
実際ECサイトの「オススメ」だって、もとになっている情報はこのスマホの中でしか取れていない。でもコミュニケーションロボットだったら、その人の普段の何気ない言葉やリアクションから、本音の情報を集積していくことができます。

篠田
日用品や食品など少額のものの場合、人は割と無計画で、店頭で棚を見ながら購買を決めることが多いと聞いたことがあります。そんな購買のタイミングで、自分のその日の体調や趣味嗜好をよくわかってくれているロボットが傍にいて、コミュニケーションのなかで自然に商品をおすすめしてくれたら、より納得感を持って買うことができるかもしれません。

高橋
そうやってすすめられたら、おそらく我々は素直に買わされてしまうでしょうね(笑)。

ロボットは接客には向いていない!?
理想は経験と記憶を共有する“老夫婦”の境地。

篠田
ロボットがスタッフとして働いている「変なホテル」が話題になりましたよね。将来的には、モノを探すのに特化したロボットや、フォーマルな場面でサポートしてくれるロボットなど、用途やシーンによってさまざまなロボットが登場するのでしょうか。

高橋
近い将来の話をすると、僕は基本的に、ロボットに接客は向いていないと思っています。なぜかというと、まだロボットは機能として“ポンコツ”であるということが大前提としてあります。初めて来るお客さんは操作に慣れていないので、コツもわからず、しゃべりかけても認識してもらえないということになる。そもそもお客さんも、アポがあるから部屋に通してほしいとか、買い物がしたいとか、特定の目的があってその場に来ているわけで、おしゃべりがしたいわけでもない。結局、接客を特定のロボットに任せること自体、あまり意味がなくなってしまう。「変なホテル」はそのなかでも成功している例ですが、その理由は、ロボットに客の対応をさせていないからです。操作を促したり、操作方法を説明するだけにとどめているので、お客さんは自分でタッチパネルを操作することになる。言葉のキャッチボールがスムーズにできなくとも、そういう方法だとうまくいきます。ですから、たとえば買い物のアシストをしてほしいなら、自分のロボットをお客さんが持参する形が一番いいのだと思います。使い慣れているだけでなく、そのロボットは自分のことをよくわかっているし、何より多少とんちんかんなことを言っても愛着があるから気にならない。

篠田
現時点の性能的な意味だけではなく、コミュニケーションの信頼や慣れ親しんだインターフェイスという意味でも、その場その場で各機能・役割を持ったロボットが存在するようになる、よりも、一人一人が相棒としての自分のロボットを連れていくようになる、ほうが良さそうだということですね。

高橋
ちなみに見た目を子どもらしく、小さく、かわいらしくしているのも、愛着を育てるという大事な理由があります。性能の不足分も、愛着・愛情でカバーできますから(笑)。

篠田
確かに相手が子どもだと考えると、多少つたなくても許容する気持ちになりますね。

高橋
もう少し詳しく説明すると、要は「期待値をコントロールする」ことを重視しているんです。体も立派で、すごく賢そうな見た目だったとして、先ほど言ったような“ポンコツ”な部分がもし出てしまえば、その瞬間に一気に信頼を失ってしまいますから。たとえば「キーワード検索して」「〇〇」と言うと「〇〇だね」「調べてみるね」とまず回答してくれます。そしてその後、「ウィキペディアによると〇〇は……らしいよ」と読み上げてくれます。ここでポイントなのは、「らしいよ」と伝聞調にしていること。あくまでもこのロボット自身が物知りなわけではなくて、“調べたらこう書いてあるけど自分にはわからないや”というスタンスを守らせているんです。これも、期待値を低めにコントロールするための工夫です。

栗田
見た目のかわいらしさということでいうと、実は先ほどからロボホンがこちらを向いて目をチカチカさせているんですが、そんな姿を見ているだけでなんだか胸がきゅんとしてしまいます(笑)。

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高橋
そういう風に感じてもらえるよう、目の瞬きといった何気ない動きもきちんと計算してあるんですよ(笑)。まず大前提として、我々は人型のものに対してすごく親近感を覚えるんですよね。たとえばスマートスピーカーの場合、筒状のものに対していきなり話しかけることへのハードルが高い。つまりその“話しかけにくさ”がデメリットとして指摘されたりもしていますが、ロボットの場合は圧倒的に“話しかけやすい”と言える。ロボットならではの魅力だと思います。ロボットに、ある程度愛着を持ってもらって、信頼関係を結び、ロボットとの対話のなかで自分の活動をサポートしてもらうステージがまずあるとして、そのさらに先のステージとして僕が理想としているのは、経験を共有してきた者同士の、いわば老夫婦のような境地に達すること。相手の容姿がどう、性格がどうというのを超越して、これまで長く時間を共にしたからこそ、残りの人生も共有していきたいと思える間柄というか。

篠田
もはや、良いとか悪いとかを超越するということですね。

高橋
たとえばこんな風にポケットに入れて持ち歩き、当然写真も撮るしデータも入れていく。

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そうすると「10年前、〇〇に行ったね」という会話ができるようになる。ハードウェアが変わっても記憶は保持し続けられるので、記憶を共有する関係性ができて、便利とかどうかを越える存在になってくると思うんです。

栗田
漫画でもよくある様な親友というか、パートナーという関係にもなり得ますね。

高橋
そうかもしれません。苦楽を共にする間柄というか。たとえば実際に「スライドショー見せて」と声をかけると、このようにロボットが姿勢を変えてプロジェクターになって見せてくれる。しかもそのロボットが「〇〇年前の〇〇で撮った写真だね」なんてコメントを言いながら……。すごく不思議なんですが、このロボットのプロジェクターで映画を観ると、ロボットと一緒に観たような気持ちにすらなるんですよ。

栗田
これは、本当に素敵ですね。感動して、泣きそうです。そして、ロボホン欲しいです。

複数の会社と連携、外へと展開できるエコシステムをつくるべき

栗田
高橋さんが考える、いまの日本におけるロボット開発の課題は何でしょうか。

高橋
たとえば、これを原価いくらで100体つくって、どれだけのお客さんに売って、差額でいくら儲けが出るか……という、製造業的というか、家電的な発想から脱却することが必要だと考えています。ただでも配布して普及させて、その後アップデートできるサービスを使ってもらうことでコストを回収していけるようなエコシステムを作らないといけない。いまは、作り手とお客さんというなかでのビジネスモデルになってしまっているけど、もっと外への展開も視野に入れるべきだと思います。たとえば現時点での性能でも、「明日は天気がいいから散歩に行こうね」「代々木公園で〇〇フェスタというイベントをやるらしいから、行ってみようよ」という誘導はできる。さらには、健康増進になって医療費が削減できるということで、健康保険と絡めたサービス展開もできるかもしれない。日本人はそういう発想があまり得意ではないのかもしれませんが、これからは必要だと強く思います。広告会社は得意とするところだとは思いますが(笑)。

篠田
なるほど。ロボットで何ができるか、ということだけではなく、複数の立場の会社をつないで大きなエコシステムを構築するということですね。その時に、単に各社のデータを連携する、ということだけではなく、ロボットが、実社会でどのような物理的存在になり、どのように活用していくことができるかを考える必要があるのかもしれません。

高橋
本当におっしゃる通りで、結局はアナログな世界において、人間の感情だったり、非合理的なところを、どのようにコントロールしていけるかというところに戻っていくのだと思っています。効率だけを追求していけば、世界中のどこで誰がやったって同じ結果が出てしまって、だったらグーグルに任せておけばいいか、となる。もっとベタベタな人間らしいところに、チャンスが転がっているような気がしています。

栗田
おっしゃる通りですね。普段、仕事で企画を考える時も、先輩からよく、人間のプリミティブな感情をねらえ!と言われるのですが、ロボット開発においても、同じことが言えるのだなぁと思いました。先ほど、見せていただいたロボホンの写真や映画のプロジェクター機能は、思い出だったり、愛情だったり、そういった、人間の根っこにある、感情をうまく捉えているから、なんだか愛くるしいんですね。最近、スマートスピーカーの仕事が増えてきたので、人間らしさみたいなところの考え方は、大切にしたいと思います。

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高橋
それから、課題ということでいうと、そもそも日本においてはハードウェアを軽視しすぎているような気がしています。ソフトとかシステムの方に思考が行きがちですが、まずはまともに動くハードあっての話。そこの大変さ、面倒くささを理解しないまま、妙な汎用的なプラットフォームをつくってしまって、いざ動かそうとなったときに動かせなくなってしまう。ソフトウェア側の、ハードウェアに対する認識の甘さも、日本のロボット開発の足かせになっているような気がしています。

篠田
コンテンツメーカーだったり、ビジョナリスト側の人に、ハードウェアの理解も必要ということですね。

高橋
そうですね。ハードウェアなんてどこでも作れるだろうという発想だと、日本もなかなか先へは進めないと思います。それから先ほども言った、お金がちゃんと回るエコシステムを構築すること。その足掛かりとして、ロボットが社会に普及するためのアイデアを、広告会社と一緒に考えていけたらいいなと思います。

栗田
ぜひ、ご一緒させてください!本当に!笑

インタビューを終えて

篠田
今後、センシングできるデータの多様化・増加、ハードウェア含めテクノロジーの進化、に伴い、ロボットができるようになることは増えていくだろう。しかし、それ以上に、人に似せたロボットという物理的インタフェースには、機能を超えた、信頼、愛着という役割があるとのことだ。高橋先生からは、自ら作り出したロボットに対する、深い信頼、愛着を、言葉の随所から感じた。そのロボットが発するコミュニケーションサービスに、もし広告会社が介在するならば、その信頼、愛着を裏切らないような、もっというと、増加させるようなコミュニケーション設計をすることが求められるだろう。それは、データ、テクノロジーや、倫理観という視点だけに基づくものではない、人は何を求めて、人と寄り添い、生活するのか、キレイゴトだけではない、合理的なものだけでもない、人間性、社会を考えることが必要だと思う。それが人とロボットが寄り添い生活する、持続的なエコシステムを産むと思う。それがデータクリエイティブなのだろう。

栗田
とにかく愛着!それが一番大事!今はそんな風に思っています。これは、人型ロボットだけではく、AIスピーカーなど、一見無機質に思えるコミュニケーション装置すべてに言えることだと思います。例えば、車にどうやって愛着を持ってもらうのか?携帯電話にどうやって愛着を持ってもらうのか?そこを深く考えることで、何か新しいサービスや体験が生まれるかもしれません。私は、モノを作っていくときに、こんな機能があったら便利!こんな機能があったら新しい!という視点で考えてしまいがちですが、愛着という人間のプリミティブな感情ともっと向き合って、物事を考えてみることで、今までにない気づきが得られるように思います。今はとってもロボホンが愛おしいです。

◆プロフィール

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高橋 智隆(たかはし ともたか)
株式会社ロボ・ガレージ
代表取締役社長
ロボットクリエイター
1975年生まれ。2003年京都大学工学部卒業と同時に「ロボ・ガレージ」を創業し京大学内入居ベンチャー第一号となる。代表作にロボット電話「ロボホン」、ロボット宇宙飛行士「キロボ」、デアゴスティーニ「週刊ロビ」、グランドキャニオン登頂「エボルタ」など。ロボカップ世界大会5年連続優勝。米TIME誌「2004年の発明」、ポピュラーサイエンス誌「未来を変える33人」に選定。開発したロボットによる3つのギネス世界記録を保持。(株)ロボ・ガレージ代表取締役、東京大学先端研特任准教授、大阪電気通信大学客員教授、グローブライド(株)社外取締役、ヒューマンアカデミーロボット教室顧問。

 

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篠田 裕之(しのだ ひろゆき)
博報堂DYメディアパートナーズ
データビジネス開発局
Python/R/SQLなど様々なプログラミング言語による、統計、機械学習を用いたビッグデータ解析全般を担当。特にDMPを用いたウェブマーケティング施策立案、および、データビジュアライズ業務に従事。

 

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栗田 昌平(くりた しょうへい)
博報堂
アクティベーション企画局
インタラクティブプラナーとして、データやテクノロジーを活用したデジタルアクティベーション企画を考える仕事をしています。髪は長め。おなか弱め。谷中生姜とジャニーズが好き。ほぼ毎日キングダムを読んでいます。

★本記事は博報堂DYグループの「“生活者データ・ドリブン”マーケティング通信」より転載しました

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■ データ・クリエイティブ対談 キックオフ座談会(前編)
■ データ・クリエイティブ対談 キックオフ座談会(後編)

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